---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 山本 順一(元・放送大学) [やまもと じゅんいち] 発表タイトル: AI・ロボット技術が図書館、図書館サービスに及ぼす影響について考える サブタイトル: ディストピア的側面をも射程に入れて 発表要旨: (1) 背景・目的  本研究発表の目的は、日本の図書館関係者に対して、AIの導入・運用によって発生する諸問題、必要なルールや規範に対する意識を喚起しようとするところにある。利用者のデータ・プライバシー、パーソナリティ情報等の地球規模の漏出・拡散の懸念等は、AIの図書館現場への導入・運用につき、業者のいいなりに伴う‘ブラックボックス’化放置、図書館側の無関心によって生まれる。この研究を意図した背景には、日本の図書館関係者には周知のことだが、‘日本維新の会’が2020年2月、インターネット上に政党としての公式見解をあげ、そこに「図書館の司書は近い将来、人工知能にとって代わられる業務と予想されます」と書かれていたことである。現在、優勢となっている政党のこの公式見解を読んで愕然としないのは、神経と精神に異常をきたしているとしか思えない。日本でも、1986年以来、‘人工知能学会’があり、研究活動が展開されている。しかし、最近のチャットAIに関するこの国のマスメディアと国内の大騒ぎは、これまた異常と言わざるを得ない。  図書館分野におけるAIに関して議論するためには、技術と意識の先行するアメリカ、欧米の議論の先端的動向を追わざるをえない。 (2)方法  国際図書館連盟(IFLA)やアメリカ図書館協会(ALA)など世界の図書館にかかわる公的組織、その背後のUNESCOやアメリカ、EUなど国際的、国家的レベルの政府の公的な関係文書を丹念に追い駆け、その情報を分析し、日本の図書館界と社会状況などと比較する。具体的には、IFLAやALAの公表している情報、国際組織やアメリカ、EUをはじめとする国家レベルのタスクフォースの報告書などを検討する。 (3)得られた(予想される)成果  日本では、先にあげた維新の会の声明にもうかがわれるように、AIの導入はすべてのバックヤードの図書館業務、個々の対利用者サービスの効果的改善を可能にすると思われており、具体的問題が議論されることは少ない。マシンラーニング、ナレッジマイニングから産み出されるAI依存の図書館サービス(AI-driven library services)は、図書館自体と利用者に対して倫理的、社会的、技術的問題をもたらす。それらは、地球的規模、コミュニティ、個人的レベルの具体的諸問題として現れる。上記の検討作業を通じて、これらに対応する規範的、組織的、技術的な解決の方向性を明示的に示すことができよう。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 谷口祥一(慶應義塾大学文学部) [たにぐち しょういち] 発表タイトル: 実装指向の表現形優先モデルの提案 サブタイトル: 全体部分関連およびaggregateの問題を介して 発表要旨: (1)背景・目的:発表者は「表現形優先モデル」(表現形を基盤にした概念モデル)の提案と検討を以前から行っている。現行処理方式に対応する体現形を基盤とする概念モデルとそれに依拠するメタデータ作成から、表現形を基盤に採用したモデルおよびメタデータ作成方式への転換を意図したものであった。本発表は、以前に提案したモデルの一部を修正・更新し、実装指向のモデルとして表現形優先モデルを再提案する。その際に、主に全体部分関連とaggregate(集合体現形)の問題を素材にする。 (2)方法:実体インスタンスごとの記述とそれらの関連づけによってメタデータを構成するという前提を採用した後、体現形優先モデルであるFRBRやIFLA LRMとその記述規則であるRDAと、以前に提案した表現形優先モデルとの主たる相違を再確認する。その上で、実装指向の表現形優先モデルとするために、必要な修正を提案する。具体的には、①表現形インスタンスの設定単位(粒度)のさらなる明確化と、②表現形の属性「代表体現形」の採用という2点である。①については、解説や挿絵等を含めたもの、広くはパラテキストの要素を含めたものとして表現形の単位設定を図る。そして、これらに直接関わる事項を含む全体部分関連とaggregateの問題に対して、体現形優先モデルであるRDAにおける扱いと、再提案した表現形優先モデルを当てはめた構図とを比較し検討する。 (3)得られた(予想される)成果:再提案した表現形優先モデルは、①全体部分関連とaggregateの両者を一貫した構図のモデルで扱うことができ、かつ②体現形優先モデルよりも簡便に表現可能であることを確認した。①一貫性とは、全体部分関連とaggregateとを基本的に同じ構図で表し記述することができる点を指す。これはパラテキストの存在を視野に入れ、たとえばすべての体現形をaggregateとして扱うことができる点にも通じる。②簡便性とは、より数少ない実体インスタンスによって事象を十全に表すことができる点を指す。加えて、③現行のパリ原則に依拠したMARCレコードによる構図からの移行が、先の表現形単位設定の結果、より容易となる点を指摘した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 岩﨑千裕(なし) [いわさきちひろ] 原田隆史(同志社大学教授) [はらだたかし] 西浦ミナ子(同志社大学非常勤講師) [にしうらみなこ] 発表タイトル: 公共図書館におけるシラバス掲載図書の所蔵状況 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:今日、公共図書館では「生涯学習関連事業」と呼ぶべき取り組みが実施されている。また、資料提供を通した生涯学習支援において、人々の学び・研究のためのニーズに応えられているかどうかは不明確である。しかし、その学び・研究のために必要な資料についてもはっきりとした定義があるわけではない。本研究では、幅広い分野を専門的に学習ができる場である大学の講義に着目した。講義で教科書・テキスト・参考図書として使用される図書であれば、資料の質や信憑性も保障され、人々の学び・研究に関わるニーズにも十分応えられると考えられる。本研究の目的は、その所蔵状況について、公共図書館におけるシラバス掲載図書の所蔵状況を調査・分析し、そこにある課題やその解消法について検討することにある。 (2)方法 :大学のシラバスにおいて教科書・テキストあるいは参考図書として挙げられている図書(シラバス掲載図書)の大学図書館・公共図書館それぞれの所蔵状況を調査・比較することで公共図書館におけるシラバス掲載図書の所蔵状況の特徴を明らかにする。なお、シラバスは同志社大学・筑波大学で開講されている講義を収集、各大学図書館と二大学がキャンパスを置く京都府立図書館・茨城県立図書館、京都市立図書館・京田辺市立図書館・水戸市立図書館の所蔵状況を調査した。 (3)得られた成果:いずれの学部のシラバス掲載図書も公共図書館におけるシラバス掲載図書の所蔵率は高いとはいえない。特に理系のシラバス掲載図書は非常に所蔵率が低い傾向にあった。また、文学については全集ものは多く所蔵している一方、研究書はほぼ所蔵されず、法学はなにか一つの法律をテーマに取り上げているもの、その中でも労働法など人々の生活に特に関わりの深い図書が多かった。心理学については軽い読み物に近い図書を多く所蔵していた。全体的に研究に関わるような、専門的なものは少なく、生活に関わりのあるもの、学び始めたばかりの人の中でも特に初学者に向けて書かれた図書に偏って所蔵されていた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 吉井 潤(都留文科大学非常勤講師) [よしい じゅん] 発表タイトル: 拉致問題関連図書の出版・所蔵状況 サブタイトル: 発表要旨: 拉致問題関連図書の出版・所蔵状況 (1)背景・目的 2022年8月30日に文部科学省が各都道府県・指定都市図書館・学校図書館担当課等に送った事務連絡「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」は、朝日新聞等で取り上げられ話題となった。これは、北朝鮮人権侵害問題啓発週間に向けて、図書館、学校図書館において、拉致問題に関する図書等の充実と、拉致問題に関するテーマ展示を行う等を求めたものである。図書の充実や展示を行う際には主に図書が必要であるが、何タイトルあるのか、どのような内容が多いのか等出版状況が明らかになっていない。さらに、現在、主に公立図書館がどれだけ所蔵しているのかも明らかになっていない。そこで本研究では、拉致問題関連図書の出版状況と主に公立図書館の所蔵傾向を明らかにすることを目的とした。 (2)方法 調査対象図書は、最初にAmazonで本を対象に「拉致問題」「拉致」「北朝鮮」をキーワードに検索を行い選定した。その後、国立国会図書館、東京都立中央図書館でも同様のキーワードで書名検索を行った。両館では、「拉致問題」という件名(BSH)も用いて検索した。その結果、明らかに拉致問題とは無関係と思われる図書を省き、109タイトルを抽出した。次に国内の図書館等の所蔵状況を把握するために、公立図書館以外の公民館図書室や専門図書館等も広く検索できるカーリルを用いて所蔵状況を確認した。カーリルは基本的にはISBNが付与されているものが検索可能であること、公立図書館の資料収集は主に商業出版物が多いことから、調査対象図書はISBNがあるものに限った。調査は2023年1月22日から24日に実施した。 (3)得られた(予想される)成果 出版物の状況は以下のとおりである。出版年別では、90年代は4タイトル、2000年代は69タイトル、2010年から2022年までは35タイトル出版されていた。図書の内容を日本十進分類法(NDC)で見ると391.6軍事情報.軍機保護.スパイ活動が82タイトルと最も多かった。所蔵状況は以下のとおりである。109タイトルを7,419館に対して検索すると合計52,646冊所蔵していた。このうち最も多く所蔵されていた図書は、蓮池薫著『拉致と決断』で3,172冊だった。拉致問題関連図書を最も多く所蔵していた図書館は、国立国会図書館東京本館が104タイトルで、次に大阪市立中央図書館が86タイトル所蔵と続いた。調査対象館7,419館のうち所蔵が0冊だったのは2,566館だった。研究集会に向けて館種別の所蔵状況、都道府県別の傾向等の整理・分析を進める予定である。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 松本直樹(慶應義塾大学文学部) [まつもとなおき] 内山喜寿(上越市教育委員会) [うちやまのぶひさ] 発表タイトル: 日本図書館協会認定司書による認定司書事業に対する認識 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 一般的に,専門職の養成,育成としては,高等教育機関における養成と現職者の研修・自己研鑽がある。後者に関しては,専門職によっては研修・自己研鑽を評価し認定する制度が存在する。日本の図書館界では,日本図書館協会が「認定司書事業」を2010年度より開始し,すでに10年間以上の実績がある。本研究では,日本図書館協会の認定司書制度に対する認定司書の認識を調査し,最終的に認定司書制度が果たしてきた役割と今後の課題を明らかにする。 (2)方法 調査では,認定司書に対して,(1)認定司書を申請した動機,(2)認定による期待とその現実,(3)認定司書の能力,(4)認定司書制度の課題,を尋ねた。調査対象としたのは,多様な背景を持つ認定司書10名である(更新者を含む)。 調査は,インタビュー調査を行った。聞き取りは対面とオンライン会議システムを用いて行った。調査時期は2022年12月から2023年3月までである。インタビューは録音し,書き起こした上で,質的分析ソフトMAXQDAを用いてコード,カテゴリを付与した。 (3)得られた(予想される)成果 現在までに分かっているのは以下のとおりである。(1)認定司書を申請した動機としては,周りの人からの刺激,転職などで役立つ,これまでの自己研鑽の確認,専門職としての自覚,認定の条件を満たしていた,等であった。(2) 認定による期待とその現実としては,まず期待として,図書館員・専門家とのつながり,自身または司書の認知度の向上,があった。その現実として,肯定的意見には,様々な人との交流などが,否定的意見には低い認知度などが挙げられた。(3)認定司書の能力としては,経営的な能力,後輩を育てる力,幅広い情報網を持つ,などが挙げられた。(4)認定司書制度の課題としては,能力を実態的なものと捉えその明確化が必要という意見と,司書としての成長を重視しそれを支援すること,つまり自己研鑽等の支援が必要という意見が挙げられた。以上から,これまで明らかにされてこなかった認定司書制度の役割,今後の課題の一端を明らかにできると考えている。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 福島幸宏(慶應義塾大学) [ふくしまゆきひろ] 宮田洋輔(慶應義塾大学) [みやたようすけ] 発表タイトル: ハイパーリンクを用いたデジタルアーカイブの評価 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 デジタルアーカイブの評価については,まだその方法は確立していない。自己評価のためのツールが発表されているものの,活用された事例はまだ少なく,多くはアクセス数をその指標にしている状況である。一方、学術論文や大学の評価において,間接尺度としてハイパーリンクの数を利用する手法が採られることがある。これと同様の視点でデジタルアーカイブの位置付けを検討する。本研究では、デジタルアーカイブが受けているハイパーリンクの分析を行うことによって,その評価とデジタルアーカイブの性格や特徴との関係を分析する手法を提案する。 (2)方法 日本のデジタルアーカイブのトップページが受けているハイパーリンク(バックリンク)の分析を行った。対象としたデジタルアーカイブはジャパンサーチに採録されているデジタルアーカイブ,saveMLAKによる公共図書館デジタルアーカイブ調査のリスト,TRC-ADEACとMAPPSに登載されているデジタルアーカイブを統合して決定した。様々な図書館・博物館などが作成した約850件のデジタルアーカイブについて,バックリンクチェックサービスであるMajestic.comを利用して,トップページに対するバックリンクの情報を収集した。取得したハイパーリンクの統計情報と,デジタルアーカイブの諸属性を組み合わせて分析を行った。 (3)得られた(予想される)成果 全体及び属性別のトラストフロー、被リンク数の散布図などから評価を行った。これらの結果にもとづいて、設置主体や主要なコンテンツなどのデジタルアーカイブの諸要素との関係を分析した。なお、今回の試みはデジタルアーカイブ評価のひとつの手法を提案したものである。今後はその他の手法と連動させ,デジタルアーカイブの評価について検討を深める必要がある。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 木村麻衣子(日本女子大学) [きむらまいこ] 発表タイトル: 著作の典拠形アクセス・ポイントをめぐる問題点 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 著作の典拠形アクセス・ポイント(以下,AAP)の構築に関する『日本目録規則2018年版』(以下,NCR2018)の本則(#22.1.2)と別法は,全面改訂前のRDA(以下,旧RDA)の本則(6.27.1.3)と別法を入れ替えたものである。発表者は,NCR2018の別法に従った場合,著作に対する“最も主要な責任を有する”個人・家族・団体(以下,agent)の判断材料に乏しいこと,および,本則に従った場合と別法に従った場合で,著作の単位が異なる結果となることを懸念している。しかし,これらの問題点は未だに整理が不十分である。本発表は,これらの問題の所在を明らかにし,改訂後のRDAの条文も踏まえて論点を整理することを目的とする。 (2)方法 先行研究を参照しながら,米国議会図書館OPACの書誌データを用いた小規模な調査を行った。具体的には,『英米目録規則第2版』(以下,AACR2)には“主要な責任を有する”創作者の選定の仕方に関する規定があったものの,RDAでは特段の規定のない①インタビューの報告に関係する書誌データ100件と,②心霊との交信に関係する書誌データ88件を調査した。さらに,③改訂された著作について,旧RDAの本則に基づく場合とNCR2018の本則に基づく場合で,著作の単位が異なる結果となるのはどのような場合かを検討した。 (3)得られた(予想される)成果 書誌データ調査によって,米国内の図書館では,AACR2の諸規則に基づき選定される“主要な責任を有する”agentが,新RDA適用下でも著作のAAPの構成要素として用いられる場合があることを指摘した。さらに,旧RDAの本則に基づく場合に比べ,NCR2018の本則に基づいて著作のAAPを構築すると,同一著作とするか否かの判断にぶれが生じやすく,結果的に著作が分散する可能性のあることを指摘した。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 宮田洋輔(慶應義塾大学) [みやたようすけ] 金井喜一郎(相模女子大学) [かないきいちろう] 木村麻衣子(日本女子大学) [きむらまいこ] 橋詰秋子(実践女子大学短期大学部) [はしづめあきこ] 発表タイトル: NCR2018は司書課程でどのくらい教えられているのか サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 『日本目録規則2018年版』(以下,NCR2018)の刊行から4年が経過し,既に国立国会図書館や株式会社図書館流通センターが作成する目録データへの適用が開始されている。NCR2018の更なる普及を図るためには,図書館職員に対する研修のみならず,司書養成課程(以下,司書課程)の学生への教育も重要である。司書課程におけるNCR2018の採用状況については,近畿地区図書館学科協議会がNCR2018の教育状況の把握を目的として実施した質問紙調査がある。これは近畿地区を中心とした大学のみを対象とした調査であり,調査対象科目も「情報資源組織演習」に限られている。現在のところ,全国の司書課程においてNCR2018がどの程度教授されているのかについては,明らかになっていない。本研究は,質問紙調査によって,日本の司書課程におけるNCR2018の教授に関する現状を明らかにすることを目的としている。 (2)方法 2022年10月から11月にかけて,全国の司書課程193校の担当者を対象とした質問紙調査を実施した。具体的には,対象科目を「情報資源組織論」と「情報資源組織演習」とし,NCR2018をそれぞれの科目でどの程度の時間を割いて教授しているか,担当者の経験年数,NCR2018の教授について不安を感じる度合い,教授の上で困っていること等について質問した。 (3)得られた(予想される)成果 132件の回答があった。授業時間に占めるNCR2018または『日本目録規則1987年版』(以下,NCR1987)を教授する時間の割合の平均は,「論」ではNCR2018とNCR1987で差が見られなかったが,「演習」においてはNCR2018の採用率がNCR1987に比べて低かった。また,担当者の教育経験が短いほど不安を感じる度合いが高い傾向にあったが,目録業務の実務経験年数による違いはあまり見られなかった。目録データの実例数の増強と,教授側への研修機会の充実が課題と言える。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 名倉 早都季(東京大学教育学研究科(院生)) [なぐら さつき] 影浦 峡(東京大学) [かげうら きょう] 発表タイトル: 言語教育研究における論理的表現力 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 2000年代前半以降,学校教育では表現活動を通じた論理的表現力の育成が重視されている。中等教育段階の学習指導要領では表現活動に学校図書館を利用することが推奨されており,学習センターの機能を担う学校図書館がどのように論理的表現力の涵養に寄与できるかを検討することは,教育現場における表現活動の設計に有用であると考えられる。しかし論理的表現力については,教育学研究において多数の定義や見方が存在しながら,それらの差異を論じる枠組みが整理されておらず,それを身につけるとはどのような言語表現を構成できることであるかが共有されていないという課題がある。本研究では,身につけるべき論理的表現力の要素や性質を,学校司書,司書教諭,授業担当の教師間で検討できるよう,論理的表現力はいかなる観点からどのように評価されてきたか(論理的に表現できるとみなされる際に,何ついて何が求められてきたか)を明らかにする。 (2)方法 教育学分野で論理的表現を扱った研究のマッピング・レビューを行う。中等教育段階の学習者の論理的表現を評価する視点が含まれる研究(教育介入により論理的表現の質の向上を図る実証研究)52本を対象に,評価に用いられる観点と基準を抽出し,教科ごとに,論理的に表現を書けるとはどのような表現を構成することだとされてきたかを整理した。 (3)得られた(予想される)成果 論理的表現については,文章を構成する要素(主張,論拠等)とその順番,内容の適切性,文法上の正しさが評価の観点として用いられることが分かった。科学や歴史の教育では根拠の適切性が,国語や英語の教育では主張,論拠,理由付け等の構成要素の有無が重視されていた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 仲村拓真(山口県立大学) [なかむらたくま] 小田光宏(青山学院大学) [おだみつひろ] 発表タイトル: 公立図書館における「地域情報資源創出継承活動」の実態 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:2000年代以降の公立図書館における地域情報・地域資料に関係する取り組みを眺めたとき,地域の日常に存在する印刷資料や画像資料,人々の記憶や人々の間で伝承されてきた情報などに着目し,それらを組織化して情報源として整備したり,掘り起こして提示したりする能動的な図書館活動が確認できる。これらは,既存の調査では,十分に取り上げられていない側面である。そこで,本研究では,そうした活動を「地域情報資源創出継承活動」と名付け,全国の公立図書館における実態を明らかにすることを目指した。 (2)方法:質問紙を用い,①「図書館自らによる撮影・録画・録音活動に関する設問」,②「地域の人々・団体・企業等との協同に基づく活動に関する設問」,③「地域の状況を把握・継承するための活動に関する設問」の三つに大別して設問を用意し,過去10年間の活動を尋ねた。調査は,2022年3月時点で図書館を設置している地方自治体を対象とし,その中央的な役割を果たしている1,391館に,調査票を送付して協力を求めた。その結果,2022年9月までに回収した1,030館(回収率74.0%)のデータを集計・分析した。 (3)得られた(予想される)成果:①から,143館(13.9%)の図書館が,自ら地域に出向いて,地域の風景や方言などを記録していたことがわかった。同様に,②から,178館(17.3%)の図書館が,地域の人々や団体と協同して,地域情報資源を収集していたことが明らかになった。①,②のどちらにおいても,写真を対象とした活動が最も多く,動画を対象とした活動が最も少なかった。また,設置者別に見ると,政令市・特別区は,他の自治体に比べて,①,②のどちらにおいても,活動をしている割合が高かった。③からは,550館(53.4%)の図書館が,地域について知ることを目的にした講座やイベントを実施していたことが判明した。また,294館(28.5%)の図書館が,地域を紹介したり広めたりすることを目的とした資料を製作していた。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 青野 正太(駿河台大学 メディア情報学部) [あおの しょうた] 発表タイトル: 図書館情報専門職認定制度の検討に向けた医療専門職の事例分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的:  図書館情報専門職の認定制度の研究においては,海外の図書館情報専門職の分析やこれまで検討されてきた日本の図書館情報専門職の分析が行われてきた。一方,他職種の認定制度を踏まえた分析は十分に行われているとはいえない状況にある。そこで本研究では,日本の図書館情報専門職認定制度の検討に資するため,国内の医療専門職を事例として認定制度を調査し,要件と制度運営団体の事業を明らかにするとともに,認定司書をはじめとした日本の図書館情報専門職の認定制度にどのような示唆を与えるかを考察する。 (2)方法:  様々な職種で認定制度が導入されている医療専門職の中でも,看護師を取り上げる。看護師は生涯学習の仕組みとして認定制度が位置づけられているとともに,規程類や申請要領でその職の果たす役割や申請要件を外形的に確認することができ,調査対象として適切であると判断した。認定制度に関する規程類や申請要領,認定団体のHPにより以下の4点を調査した。①認定制度の枠組み,②新規・更新それぞれの認定要件,③団体による制度に関する事業,④認定者の活動。 (3)得られた(予想される)成果:  図書館情報専門職の認定制度に与える示唆として,以下のような成果が得られると予想される。①認定制度の枠組みとして,3種類の制度が設けられるとともに,制度ごとに専門分野の区分が設けられ,専門職の志向に応じて選択できるようになっている点。②認定要件として新規認定は勤続年数や指定の研修受講の有無など,学習歴を認定要件としていたのに対し,更新認定では講師など専門職としての活動歴を認定要件としている点。③団体による制度に関する事業として,大学や業界団体との連携によって認定のための研修カリキュラムが編成されている点。④認定者の活動として,政策提言や,学術集会の実施や論文誌の発行といった業界の発展に資する活動に取り組んでいる点。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 安形 輝(亜細亜大学) [あがた てる] 江藤 正己(学習院女子大学) [えとう まさき] 杉江 典子(東洋大学) [すぎえ のりこ] 橋詰 秋子(実践女子大学短期大学部) [はしづめ あきこ] 安形 麻理(慶應義塾大学) [あがた まり] 大谷 康晴(青山学院大学) [おおたに やすはる] 発表タイトル: 複数の情報源を用いた日本のマンガ作品の翻訳書誌作成の試み サブタイトル: 発表要旨: ​1)背景・目的  日本文化としてのマンガの国際的な受容の全貌を明らかにするためには、日本のマンガ作品が他言語に翻訳された​ものを収録した翻訳書誌​が必要であるが、現時点では​網羅的な翻訳書誌は存在しない。出版社が公開している情報や国際的な​​​​総合目録においても、翻訳版が必ずしも日本の​元​作品と紐付けられていない​ため、そこから書誌を作成することができない​。著者らは既往研究において、VIAF(国際バーチャル典拠ファイル)、Wikipediaの日本語と他言語の記事、SNSのLibraryThing等の情報源を日本のマンガ作品の翻訳版の同定に活用できることを示してきた。本研究の目的は​こうした​複数の情報源から得られた翻訳版情報を統合することで、各情報源がカバーする翻訳版の範囲や特徴を示すこと、翻訳版の情報が得られやすい作品の特徴を明らかにすることである。 (2)方法  調査対象としたデータセットは日本のマンガ作品の第一巻の約3万件のISBNリスト​である。​各情報源内のデータを​ISBNを検索キーとして検索し、情報源に対応した手法で翻訳作品との紐づけを​行った。​本研究では、その​識別結果を​統合し、​各国語​に翻訳​された​日本のマンガ​作品が​​​どの程度​網羅的に​紐づけられるのか集計し​​、​​情報源ごとに​比較をおこなった。​さらに、元の作品のCコードや電子書籍の有無とクロス集計した。​​ (3)得られた(予想される)成果  複数の情報源を用いることで、​総合目録WorldCatにも登録されていない翻訳作品を発見できる一方で、それを統合しても翻訳作品の網羅的な把握は難しいことを明らかにした。また、ジャンルや電子書籍の有無という点から、翻訳版の情報が得られやすい作品の特徴を明らかにした。各情報源を比較すると、それぞれの情報源でカバーしているジャンルや、翻訳先の言語、地域等に違いがみられた。​ ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 足立朋子(同志社中学校・高等学校) [あだちともこ] 原田隆史(同志社大学) [はらだたかし] 発表タイトル: 高等学校図書館における館外貸出と館内利用の特徴分析 サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的  図書資料の利用には館外貸出と館内利用が含まれる.大学図書館, 公共図書館を舞台とした先行研究には,館外貸出の傾向を見ることで館内利用についてもある程度の予測が可能であること, 館外貸出と館内利用にはいくつかの異なった傾向がみられることが示されている.しかし, 学校図書館においても同じことが言えるのか, また特有の利用傾向がみられるかどうかの実証実験はなされてこなかった.  本研究では高等学校図書館において,図書資料の館外貸出および館内利用のデータを取得し分析することで, 実数として示されてこなかった学校図書館における図書資料利用の実態を明らかにし, 活動評価や蔵書評価および活動方針策定の精緻化の材料とすることを目的とする. (2)方法  同志社高等学校の図書館で2018年度から4年間の館外貸出及び館内利用の記録を調査した.館内利用については, 記録用IDを用意し, 館内に返本台を設置してそこに戻された本を1日5回記録して取得した.また館外貸出については図書館システムから記録を取得し, 利用者個人を特定することが可能となる項目を全て削除した上で分析に用いた.  館外貸出と館内利用との相関および学内の行事などによる年間の変動については既に別途発表を行っている.今回は館外貸出と館内利用の傾向を, 利用された図書資料の主題ごとおよび図書の年齢(受入年度から利用時までの年数)ごとによる利用の特徴, 授業利用による影響について比較分析した. (3)得られた(予想される)成果  4年間に記録された館外貸出は15,573件、館内利用は13,363件であった.資料の主題分野ごとにみると, 特別な利用制限を設けない主題分野については,館外貸出が館内利用を少し上回っており, 館外貸出が多い分野は館内利用も多くなる傾向が見られた.ただし, 一部館外貸出と館内利用の比率が大きく異なる主題分野がみられた.図書の年齢ごとによる分析では, 館外貸出, 特に9類は新しいものがよく利用されるという傾向が明らかになった一方, 館内利用においては古い資料も新しい資料と同じように利用されていることがわかった.また, これらの利用傾向はコロナ禍における学校活動の変化によって大きな影響を受けなかったことも明らかとなった. ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: Yao Yichen (姚 依辰)(東京大学学際情報学府) [ヨウ イシン] 発表タイトル: 大学生における「読む」ことをめぐる課題とはどのようなものか サブタイトル: 発表要旨: (1)背景・目的 大学生の読む能力が問題視されているが、大学生が読むことにおける課題とは何かは明確にされていない。読むことは、書記体系 (writing system) の形成とともに、人間の情報活動において実質上不可欠なこととなり、実践的な観点からは図書館、学校、大学などの教育機関における活動で中心的な部分を占める。読むことは様々な分野で研究の対象となり、その中には読む能力をリテラシー育成の基礎技術として位置づけ、学校の教育成果と結びつける論説がある。大学の場合は、更に「読解力」の欠如を学業の失敗・退学の原因とする主張が見られる。 しかしながら、「読めない」ことが大学生の学業不振の原因であるという結論を導いた報告が複数ある一方で、読むこと、そして読むことをめぐる課題とはどのようなものなのかは明らかにされていない。現代では幼少期から読書指導が行われ、基礎教育を経て大学に入った学生は、一定程度は読めることになっているはずであるが、それにもかかわらず「読めない」とはどのような状況なのか。ここで、今まで扱われてきた大学生読書の研究に、定義の問題が二つある。まずは対象の問題である。大学生が読むというときに何を読むのか。ここで「何を読むのか」という問いは、小説や新聞、学術書といった対象を意味するのではなく、それらにおいて読まれるものは何かに関する問いである。二つ目は判定の問題である。どのような背景、どのような基準で大学生の読む能力に問題があると主張され、何が言われたのか。大学生がどのように読むかを対象とする先行研究において、「読む問題」はどう考えられてきたかを分析する。 (2)方法 東京大学附属図書館が提供する検索サービスTREE(Utokyo Resource Explorer)からキーワード “higher education reading ability” を検索した。本文が英語のジャーナル論文3,106本のうち、大学生の読む能力がどうして問題になるのかについての記述と読む実態の検証の双方を含むもの、そしてそれらの引用文献のうち、同じ基準に該当するもの合わせて15本を分析の対象とし、以下の質問に対する回答をカテゴリー化する: 1. 先行文献において、大学生が読むことに関する問題はいかに記述されているか 2. 先行文献が扱う読む問題において、「読まれる」といったときに何が対象とされているか 3. 先行文献において、「読む」ことを扱う際にどのような枠組みを設定しているか (3)得られた(予想される)成果 大学生の読む問題は、今まで「読解力 (reading comprehension)の欠如」とみなされてきたことが示される。しかし、これら読書研究において「読解力」はすでに前提とされており、それが、大学生が実際に読み理解をする際に求められるものと必ずしも一致するとは限らない。従って、大学生の読む問題は読解力の欠如だという主張は、そもそも読むことは何を対象とした いかなる行為かという観点から、再検討の必要がある。 ---------------------------------- 発表種別: 口頭発表 発表者: 高松美紀(東京学芸大学附属国際中等教育学校) [たかまつみき] 発表タイトル: 国際バカロレア校における図書館員の学習活動への関与 サブタイトル: インターナショナルスクールと一条校の事例を通して 発表要旨: (1)背景・目的   国内では、学校教育法第1条で定義される一般の学校(以下「一条校」)で国際バカロレア(以下「IB」)が拡大している。しかし、高松(2021)は質問紙調査から、一条校がインターナショナルスクール(以下インター校)と比較してIBが示す「Ideal Libraries」に十分に対応していないことを指摘した。本研究の目的は、IB校の図書館員の学習への関与について具体的な実態と背景を明らかにし、一条校の課題と可能性を検討することである。 (2)方法  2021年8月~2023年3月にインター校2校と一条校3校を訪問し、各校で主となる図書館員1名に半構造的面接調査を実施した。図書館員の学習における関与の仕方、その背景となる資格や業務内容、校内での位置づけを検討した。 (3)得られた成果  第一に、リサーチスキルの指導やリソース提供のあり方である。一条校の図書館員は司書が中心でレファレンスサービスや場の提供が主となる傾向があるが、インター校の図書館員は、“Teacher Librarian”がリサーチスキル指導の専門家として、問いの立て方やサイテーションを含め、発達段階に応じて計画的・継続的に指導し、学校の学習の核となる情報リソースのプラットフォームを運営していた。第二に、図書館員の資格や校内の位置づけである。インター校の“Teacher Librarian”は、米国で図書館情報学の修士を持つなど、情報リテラシー指導の専門家として校内で認知され、位置づけられていた。一方一条校では、学習指導は教科担当教員の役割で、司書を中心とした図書館員は支援者として学びの周縁に位置付けられる。ただし私立学校では、学校組織の柔軟な対応により司書や司書教諭が積極的に学習指導に関わる例もある。  一条校の学校図書館が今後情報化の中で積極的な役割を果たすためには、図書館員の養成・研修の具体的な内容とともに校内での位置づけを検討する必要がある。 ----------------------------------